顎変形症とは、顎骨の発育異常によって生じた顎骨の形態変形であり、『上顎あるいは下顎が前方に突出していたり、逆に顎が小さいなどで上下の歯の噛み合わせが大きくずれてしまっていたり、顔が左右非対称で歪んでいるような状態』です。
反対咬合(受け口)、出っ歯、アゴが横にずれているなど顔貌に問題が生じます。また変形の程度によっては、言葉がわかりづらい、うまく噛めないなどの機能障害がでることもあります。
子供のうちは歯の矯正で対処できることもありますが、成人してからは、”矯正治療に顎矯正手術を組み合わせる” ことで治療することになります。
もっとも古典的な分類で、Angleは上顎第一大臼歯を咬合の鍵と考え、上顎歯列弓と下顎歯列弓の近遠心的関係で不正咬合を分類しました。
上下歯列弓が正常な近遠心的関係(上顎第一大臼歯の近心頬側咬頭の三角隆線が下顎第一大臼歯の頬面溝と咬合する)を示すもので、個々の歯の位置異常や傾斜、歯の大きさと歯列弓の大きさの不調和、前歯部反対咬合や上顎前突を示す不正咬合です。
下顎歯列弓が上顎歯列弓に対して正常よりも遠心に咬合するものです。
1類 (division I):両側性下顎遠心咬合で、上顎前歯の前突を伴い、かつ口呼吸を示すものです。片側性の場合にはsubdivisionとします。
2類 (division II):両側性下顎遠心咬合で、上顎前歯の後退を伴い、正常な鼻呼吸を営むものです。片側性の場合にはsubdivisionとします。
下顎歯列弓が上顎歯列弓に対して正常よりも近心に咬合するものです。片側性の場合にはsubdivisionとします。
顎矯正手術(顎変形症に対する手術)は、以下の2つに大別されます。
1)上顎骨、下顎骨といった骨全体を切って前後、上下、左右に移動させる LeFort(ルフォー)Ⅰ型骨切り術、下顎枝矢状分割術(IVRO)、下顎枝矢状分割術(SSRO)
2)歯を含む骨の一部だけを切って移動させる 下顎前歯部歯槽骨切り術、上顎前歯部歯槽骨切り術
どの手術も全身麻酔下に行われ、口の中を切開します。骨切りによって移動させた骨はプレート(チタン製、吸収性)などで固定します。術後には顎の安静が必要であり、上下の歯にゴム、ワイヤーなどをかけて咬合を安定させます。顎矯正手術の計画にあたって一番大切なことは、患者様一人ひとりにあった適切な治療法(矯正治療と手術との組み合わせなど)を模索することです。‟顔貌の審美的な改善”と‟顎顔面の持つ重要な機能”との調和を重視して、最良の結果に導かなければなりません。顔面には感覚器官が集中しており、血液の流れが豊富です。骨の中にも太い血管や神経が通っています。そのために切る位置や方向、量には様々な制限があり、顎の形を自由自在に変えられるというわけではありません。理想的な形態を獲得するためには、オトガイ形成、下顎角形成、咬筋減量術など他の顔面輪郭形成術を組み合わせて手術計画を行うこともあります。リッツ美容外科でおこなわれる顎矯正手術のコンセプトは、一般病院で行われるそれとは大きく異なっております。
リッツ美容外科 | 一般病院 | |
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主たる最終 治療目標 |
顔面輪郭の 改善 |
咬合の改善 |
術前の矯正 | 省略(はじめに手術を行う) | 平均1~2年 必要 |
チーム医療 | 全分野の 専門医が集結 |
数カ所の医療 機構を掛け持ち |
当院で行われる治療法は、患者様の要望を最大限に取り入れたものであり、以下の3点で大きな特徴があります。
顎矯正手術を不正咬合の治療法(機能的改善)としてだけとらえるのではなく、美容外科手術の一つ(審美的改善)として位置づけしています。この概念は、Aesthetic Maxillofacial surgeryと呼ばれています。ヨーロッパ、アジアをはじめ海外では広く浸透しています。
一般的には上顎前突(出っ歯)や下顎前突(受け口)などの顎変形症の患者様では、顔貌のコンプレックスが強く、『美しい顔貌、美しい口元になりたい』という審美的な理由で治療を希望される方が多いのです。それに対して、大学病院、一般病院(口腔外科、矯正歯科)では、主に〝咬み合わせの不正状態”を病気として治療します。すなわち治療の第一優先順位は咬合の改善であり、決して顔貌の美容的な改善が第一優先順位になることはありません。代表例を挙げますと、口腔外科、形成外科では中等度以上の下顎前突(受け口)の治療では、近年2jaw surgeryと言って、下顎を後退させ、上顎を前方に出す(LeFortⅠ型骨切り術)という治療が主流になっています。下顎だけを後退させる手術をするよりは、上下顎を動かすことによって下顎の移動量を減じることにより、咬合がより安定しやすいというコンセプトによります。
ところが上顎を骨切り(LeFortⅠ型骨切り術)によって前方に出すと、術後に鼻先は上向きに短くなりなり、鼻翼は大きく横に開がり、美容的には大変なマイナス!になってしまいます。したがって審美的な面で考えますと、上顎を前に出すという手術はタブーといえます。そこで当院では、審美的にマイナスになる上顎の前方移動手術は適応を厳選して、できる限り行わない方針です。
リッツ美容外科の特徴の一つとして、顔面形態を審美的観点から改善することを目的に上下顎の手術(顎矯正手術)を取り入れています。当院を訪れる患者様の中には、咬み合わせは特に悪いわけではなく、『とにかく小顔にしたい!』『アゴのラインをほっそり、小さくしたい!』という方が少なくありません。お顔を拝見してみますと顔全体のバランスの中で、”下顎(顔面下1/3)がなんとなく大きい”、”なんとなく突出している”という患者様も少なくはなく、人種的にはアジア人に大変多いと言われています。咬み合わせは正常咬合(ときに切端咬合)のこともあり、反対咬合のこともあります。またなかには、過去に歯科矯正で咬み合わせの治療は終了しているが、骨格の改善が行われずに患者様にとっては不満足な状態(下顎全体が大きく突出)の方も少なくなくありません。このような患者様の下顎輪郭の改善(縮小)手術は、大きく分けて2つの方法が考えられます。
1)オトガイ、エラを骨切りしてできる限り顎を小さくする
2)下顎枝矢状分割術を適応して下顎骨を後退させて、3次元的に小さなアゴをつくる
さらに究極の小顔手術は、1)、2)の両方の方法を併用して行うということになります。エラ、オトガイの手術は術後の咬み合わせには影響を与えません。ただしオトガイとエラのちょうど中間領域、すなわちオトガイ孔(神経の出口)周辺の骨は削れませんので、術前の下顎突出の形態によってはその部位の大きさが残って改善が不十分になることがあります。下顎枝矢状分割術は下顎全体が後方に移動するため、オトガイ孔の周囲も後退することにより立体的に小さくなったという印象が強く出ます。ただし、下顎の歯も全体に後方に移動するため、術前より咬み合わせが悪くなる可能性があります。これに対しては歯を削って咬合調整をする、補綴で治療する、歯科矯正治療を行うなどを術後に併用することになります。ここで強調したいのは、小顔手術の強力な武器として、顎矯正手術は適応できるということです。従来は反対咬合(受け口)に対してしか行われなかった下顎枝矢状分割術(下顎を後退させる)を、美容的な下顎縮小術(小顔手術)に応用します。さらに咬筋減量、頬脂肪体切除、下顎角切除、オトガイ減量術などを併用することにより究極の小顔手術が可能になるわけです。リッツ美容外科は、顎顔面・口腔外科の専門クリニックであると同時に美容外科の専門クリニックでもあります。Aesthetic
oral-maxillofacial surgeryという分野を、国内では新しく開拓するべく、院内には美容外科、口腔外科、矯正歯科、審美歯科が併設されています。私どもはまず患者様の顔貌(顔型)の美容的なコンプレックスを第一優先に考え、それに対してどのような骨切り方法が良いかを検討します。ただし出っ歯や受け口などの顎矯正手術では審美的な顔貌を得る際には、咬合の改善が前提となっていますので、咬合関係が悪化するような手術計画は行うべきではありません。手術後に安定咬合が得られない場合には、咀嚼筋のバランスは崩れて、顎は元の位置に戻ろうとします。そこで“顔貌の改善”と“咬合の改善”とを両立しなければならないために、美容外科・口腔外科医と矯正歯科医とがチームとなって共同で治療にあたることになります。
現在大学病院などで行われている顎矯正手術の一般的な治療の流れです。
外科矯正治療の一般的な流れ
外科矯正治療では、
「術前矯正」→「入院・手術」→「術後矯正」→「保定」というのが一般的な治療の流れです。
術前矯正
矯正治療を1年〜3年ほど行います。
入院・手術
2〜4週間の入院となります。
術後矯正
矯正治療を1年ほど行います。
保定
2年ほど保定装置を使用します。
施設、患者様の状態によって大きな差はありますが、初診から治療終了までの平均所要期間は3年~5年です。術前矯正について、本当に必要かどうか?検討する必要があります。近年患者様にとっての不都合を改善すべく,治療の初期に手術を行って“顔貌を変化”させて、その後に矯正を始めようという治療報告が増えてきました。この治療法は、Surgery First(サージェリーファースト)と呼ばれ、治療の初期段階に手術が行われ、上下顎を理想的な位置に整復し、その後に矯正治療を行うという治療法です。当院では、顎矯正手術の治療計画において、はじめに術前矯正の必要性を厳密に検討します。Surgery first 法の基本原則を有効活用すれば、すべての症例で術前の歯列矯正期間がないか、かなり短縮出来ます。十分に経験をもつ歯科矯正医と外科担当医がチーム医療として協力したうえで、慎重に症例を選び、最終的な咬合状態を事前に想定し治療計画を立てることにより良い結果が得られます。この治療法は高度なアプローチと多くの経験が必要で、どこの施設でも行えるわけではありません。
1)治療開始早々に顔貌形態に満足していただけます。
2)トータルの治療期間が短縮されます。
3)患者様が手術の時期を選択できるわけで、術後のダウンタイム(腫れの期間など)を十分に設けることが出来ます。
4)術後矯正を必要とする場合には、局所再生促進現象を活用して歯牙移動を加速させることが出来ます。
5)矯正済みの骨格パターンに基づき歯牙移動を行うことが可能です。
上顎前突(出っ歯)や下顎前突(受け口)などの顎変形症では、矯正歯科医と美容外科・口腔外科医がチームとなって共同で治療にあたることになります。そのため担当医師間で情報共有を十分行う必要があります。大学病院・一般病院で行われている顎矯正治療においては、この情報交換が十分に行われないのが現状です。なぜなら、多くの場合に歯科矯正治療と顎矯正手術を、別々の施設で受けることになるからです。さまざまな検査も重複して受けることになり非効率的です。さらにもっとも問題となるのは、患者様の意向がすべての施設の医師に行き渡るかどうかが疑問です。ある患者様の一例を紹介します。
子供の頃から歯並びで悩んでいた私は、30歳を過ぎた時期に何とか治療したいということで最初にA矯正歯科を受診しました。診断では歯だけの問題ではなく、骨格も影響しているということでB病院・口腔外科を紹介されました。そこでは顎矯正手術は専門に行っていないということで、C大学病院を紹介していただきました。そこでは治療の概略として、歯科矯正治療という方法、歯科矯正治療と外科矯正治療を併用する方法と大きく2つの選択肢があることを説明していただきました。その後とりあえずはA矯正歯科で矯正治療をを始めたのですが、抜歯が必要ということでDデンタルクリニックを紹介されました。レントゲンなど検査が重複して多く無駄であるように思えました。さらに外科手術を漠然と考えていた私はC大学病院・口腔外科との詳細なやり取りをしていただきたいと矯正の先生にお話ししたのですが、何となく流されてしまいました。最終的には手術を決断したのですが、そのため手術ギリギリになってから再びC大学・口腔外科受診となりました。『希望の日程で手術が押さえられない』、『2週間に及ぶ長期の入院が必要である』など融通はまったく効きませんでした。またC大学病院では、どの先生が自分の手術を行うのか (主治医)がわからず、私の悩みに関してゆっくりとコミュニケーションもとれませんでした。歯並びだけではなく顔貌も変わりたいために手術を決断したのですが、『いったい自分の思うような顔貌になるのだろうか?』と手術に対する不安は解消されませんでした。矯正・外科手術を別々の病院で受けようとお考えの方には、私のような嫌な経験をして欲しくありません。矯正歯科を受診するとともに、同時期に口腔外科(手術を受けようとしている病院)を受診することをお勧めします。そのうえで長期的なプランをお互いの先生同士がコミュニケーションして考えていただければと強く感じました。また検査も重複することなくデータでのやり取り等を考えていただければよかったのですが…。手術後の経過観察、検診も手術したC大学病院、A矯正歯科にそれぞれ通わなければならず、日程的にもロスが多かったと思っています。
複数の医療施設で治療を終えられた多くの患者様でこのような不満を訴えられる方もいらっしゃいます。リッツ美容外科は、審美的な面を最重視する顎顔面・口腔外科の専門クリニックです。そこで院内には美容外科、口腔外科、矯正歯科、審美歯科の各分野の専門医が常勤していることが大きな特徴です。当院ではすべての患者様に対して、初診時の診断、治療計画立案に関する検討、手術、術後のフォローのすべてを専門医により構成されたチーム医療で行います。